ひと塊
旨いうどん屋があると言ったのは三郎で、この休日に久々知と竹谷、そして雷蔵と三郎とは誘い合わせて往く約束をしていた。
久々知と竹谷は部屋を出て、途中の廊下で顔を合わせた。そして声をかけても戸を叩いても全く応じない残りの二人の部屋を開いて、共に立ちつくした。
仲睦まじい友人らは二つの毛玉になっていた。正確に言えば、狭い布団から先だけを出した巨大な二つの毛玉のようにしてもぞもぞと動いていた。
たぶん雷蔵である毛玉が言うにはこうだ。
「目が覚めてみたらさ、三郎の肩の上へ僕の頭が乗っていて、どこまでが僕のでどこからが三郎の髪かわからないんだよ……起きようとしたら、絡んでるみたいで痛くって。痛いから起き上がれないだろ、寝ころんだままだからどうしたって眠いだろ……部屋も布団の中もあったかくってなおさら眠いし……眠いからどっちの髪だかわからないし。だからやっぱり……起きられないんだよ」
寝言かもしれなかった。雷蔵は何を言っているんだろう? と久々知は首を傾げた。竹谷は何かおかしな事件が始まったのではないかと疑い辺りを見渡した。
次に三郎らしき毛玉が言った。
「私たちこういう動物になってしまったんだ。飼っておくれよ」
「はあ?」
「今はまだ手足二揃いあるが、きっとすぐにくっついてしまうだろう。それからその一揃いも、すぐに胴の方へ飲み込まれてしまうだろう。四肢をなくして我らはきっと餌も取れずに、こうしてただ蠢いているしかできなくなるよ。心はそれで満足だが、残ったところが生きていけないからな。時々こうしてここへ来て、水と餌を置いて世話をしてくれ」
「馬鹿! 今いるだけでもう手一杯だよ!」
竹谷が叫ぶと、「友達がいのない奴だ。おやすみ」と三郎毛玉は言った。
「おい待て、お前たちどうしたんだよ」
竹谷は追及したが両毛玉に無視された。
「雷蔵、約束をしただろ」
久々知は良心に訴えたが、頼りの雷蔵毛玉も「髪がねえ、こうではねえ……」と要領を得ない返事を返してくるだけだった。
そうして二玉がいつまでたっても人に戻らず、いつまでたっても巣籠るままなので、竹谷と久々知は部屋を出て、無言のままてくてくと廊下を歩いた。それから「じゃあ」「仕方ないな」と短く言葉を交わして互いの部屋へ戻った。
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