さむい日の喧嘩
さぶろうとらいぞうは喧嘩をしました。とても大きな喧嘩です。さぶろうは巣穴の中にあったりんごの、芯という芯を投げました。らいぞうは芋という芋を投げました。それで当たったり刺さったり、たんこぶができたり、もう大変でした。
二匹はぷいっと反対を向いて、このまま一生口もきかないつもりでした。
夜になると、二匹はぎゅっと口をつぐんだままで寝床を綺麗に“にとうぶん”。二等分ならぬ二頭分です。分けた葉っぱの寝床にやっぱり逆を向いて入りました。
どのくらい経ったでしょうか。
「……ちょっと、さーむい」
さぶろうが聞こえるように呟いて、らいぞうの寝床をちらっと見ました。
らいぞうは寝ています。葉っぱと一体化しています。
「ちょっと、さーむいっと……」
さぶろうは葉っぱの山から出ると、ゆっくり時間をかけてらいぞうの寝床へ近づきました。忍者みたいに足音ひとつたてません。じりじり、じりじり、近づいて、そしてやっとらいぞうの頭の上のところまで来ると、すばやく寝床に滑りこみました。シュッ!
途端にらいぞうの目がカッ! とみひらきました。シュッ! のカッ! で二匹は大きく目を開いたまま見つめ合いました。
「……」
「……」
じりじり忍者しているうちに、すっかりさぶろうの毛皮が冷えてしまっていたのです。すごく冷たいものが入って来たので、らいぞうの目はカッ! となっちゃったのです。
どう考えても手遅れでしたが、さぶろうはめげずに「らいぞうが寝たふり」をしました。目をふんわりと閉じて、あったかそうな顔をして、口のところをむにゅむにゅさせました。
さぶろうはゆっくり葉っぱの中に沈んで行きました。結果、耳のところだけ残りました。
「寝ないでしょ」
らいぞうは葉っぱをちょいちょいやってさぶろうの顔を堀り出しました。
「ねえ、さっき入って来たのに、むにゅむにゅしないでしょ」
さぶろうはあったかそうに目を閉じたままです。
「らいぞうとは、今しゃべれないよ……」
「何で?」
「喧嘩してるからね。これひとりごと……」
らいぞうは半分忘れていました。でも今ので思い出しました。
「さぶろう寒いから出てって」
「もう出ていけないよ」
らいぞうは「出てって」とさぶろうの体をぐいぐい押しました。さぶろうは「出ていけないよ」と言って押し返しました。
「出て」「いけない」を繰り返していると、らいぞうの足が寝床からはみ出ました。らいぞうはぶるっと身ぶるいをしてそれをひっこめました。次にさぶろうの尻尾がはみ出ました。さぶろうもぶるっとしてひっこめました。
ぴょこぴょこと色んなところがはみ出ました。二匹はぶるっと身ぶるいをしてひっこめました。
「出ちゃうとさむいね」
「さむいね出ちゃうと」
二匹はぎゅっとくっついてみましたが、やっぱり窮屈です。
「足りないね」
「くっつけようか」
「足りないからね」
二匹は寝床から出て、さぶろう分の葉っぱをずりずり押してらいぞう分とくっつけました。そして元通りの寝床へすぐさま入って、また二匹でくっつきました。
「さむいね」
「さむいさむい」
二匹は中でごろごろ転がりました。でも大きな寝床になればもうこっちのものです。ごろごろしたって大丈夫。どこもはみ出たりしません。しばらくすると、体がぽかぽかしてきました。
ぎゅっとくっついたままのさぶろうがもぐもぐ言いました。
「さむいから喧嘩終わりにしようね」
「いいよ……」
やっぱりぎゅっとくっついたまま、らいぞうが答えました。
さぶろうが毛づくろいをしてくれる時、抜けたらいぞうの毛をこっそり集めていることはらいぞうも知っていました。でも今日のお昼、さぶろうは間違えてごっそりらいぞうの背中の毛を抜いちゃったのです。自然に抜けたのじゃなくてブチッとやっちゃったのです。
らいぞうが「ぎゃっ!」と叫んで、さぶろうはすぐに「ごめんね! ごめんね!」と謝りました。
もちろんらいぞうは許してあげたのですが、背中に手のひらひとつ分くらいのハゲができてしまいました。
夕方になるとさぶろうの襟巻が完成していました。らいぞうの毛で作ったらいぞう襟巻です。
「でーきた!」
嬉しそうな声を聞いて、らいぞうも「どーれー?」と覗きこみました。ふかふかの、とってもあったかそうな襟巻です。
「あったかそうだねー」
「寒くなってきたしね。あともうちょっとだったんだ。ここんところの毛がね、足りなかったからね!」
さぶろうは襟巻のさきっぽのところで、手のひらひとつ分くらいの丸を描きました。ちょうどらいぞうの背中にできたハゲと同じくらいの丸でした。それから、さぶろうはいそいそとらいぞう襟巻を自分の首に巻きました。
「どーうー?」
らいぞうはひゅっと笑顔をひっこめました。
らいぞうは、ハゲ丸のことを考えました。それから、らいぞう襟巻は一本だけど頑張ったら二匹で巻けるかもねと思ったことについて考えました。
「らいぞうの匂いするでしょ? これでらいぞうと同じ匂い……」
そこでさぶろうは、らいぞうの顔がつーんとなっちゃってることに気付いたのです。
その後は二匹でつーんとしたりギャアギャア言ったり大変でした。当たったり刺さったり、たんこぶができたり大変でした。二匹の喧嘩はそういうわけでした。
「さぶろう、怒ってごめんね」とらいぞうは言いました。
「らいぞう、ごめんね。明日ハゲ丸の毛返すからね」とさぶろうも言いました。
「もういいよ。すぐに生えてくるからね……」
冬が来て、さぶろうはちょっとだけ体が大きくなったのです。「さぶろう」の毛皮からはみ出ちゃう分を、どうしても襟巻で補う必要があったのです。でも、そんなのらいぞうには言えませんでした。
らいぞうはずっと前からさぶろうが何かを隠していること、なんとなく知っていました。でも、そんなのさぶろうには言えませんでした。
今夜のところは二匹はぎゅっとくっついて、お互いのふかふかの毛に埋まって眠るのです。寒いですからね。喧嘩はいやですからね。
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